私小説-from left to right-/水村美苗
私小説―from left to right (ちくま文庫)/水村 美苗
とても珍しく小説、なのですが、私小説だけあって、ほぼ、かたぶん実話なのでしょう。
主人公はアメリカに住む水村美苗、30代の大学院生。
大学院の最後の口頭試問を理由なくのばしのばしにして今に至る。
姉の奈苗はかけだしの彫刻家、やはり一人暮らしで不安定な生活。
二人は駐在員の両親に連れられ、10歳ごろにアメリカにやってきます。まだ、日本が経済力をつけていくほんの少し前の時代でした。
”いつかは”日本に帰るんだ、思っていた二人に20年の時が過ぎ…。
アメリカ東部で、日本人としてすごしながら、読書を通して自分の中の日本を育てつづけた著者の私小説、でいいのかな。
電話と、美苗の回想でゆっくりと美苗の決意があらわになっていきます。
東洋人がアメリカに生きることの厳しさが伝わりますが ”ここでやっていく”のか否か、の揺れのプロセスには共感するものが誰しもあるのではないかと思います。
英語と日本語が交錯するので、読みにくいと言えば読みにくいのですが、それで一層 姉妹の置かれた状況と心の様子が伝わります。
万人向けではないですが、”ここではないどこか”を探している人に、いいかも。